PCR検査の不都合な真実、偽陰性と偽陽性

政府はようやくPCR検査の対象者の条件、いわゆる「37.5度ルール」を見直すことにしたようです。

朝日新聞デジタル(2020/5/5)
PCR検査の相談目安変更へ 「37.5度」削除も検討

新型コロナウイルスに感染したかどうかのPCR検査の必要性を判断する相談センターへの相談の目安について、政府の専門家会議は、重症化しやすい人は風邪の症状が「2日程度」続いた場合としていた日数をなくし、すぐ相談しやすくなるよう目安を変更する方針を固めた。「37・5度以上」が4日以上としていた発熱の目安も削除することを検討している。

今後はPCR検査が大幅に増えていくことを期待したいですが、そうなると少し気になることがあります。

PCR検査拡大反対派の方々が必ず持ち出してくる、偽陰性、偽陽性の話です。

PCR検査偽陰性偽陽性
MEDLEY(2020/3/2)

PCR検査の具体的な感度と特異度は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療所・病院のプライマリ・ケア初期診療の手引き によると、

初期のPCR検査で陰性だが後日陽性となった患者等の検討により、感度は30~70%程度、特異度は99%以上と推定されています

だそうです。
いくつか検索してみたのですが、大体このようなアバウトな数字ばかりでした。
もう少し正確な数字があってもいいと思うのですが。

偽陰性は、検体の採取が上手くできなかったことが原因としてよく言われていますが、感染研のSARSのPCRの説明 でこのように記述されています。

感度が低いために、検査結果が正しくない(偽陰性)。現在の検査法は感度を向上させるために更に開発を続ける必要がある。
(PCRやウイルス培養のための)検体採取が、ウイルスやその遺伝子あるいは遺伝子断片を排出する時期に行われなかった。検査した検体の種類により、ウイルスやその遺伝子断片の排出期間が短期間しかない場合も考えられる。

さらに研究施設において精度管理が不十分なために検体汚染が生じても、偽陰性の検査結果に繋がる。

装置の感度の問題や、施設の検体管理の問題なども偽陰性の原因としてあるようです。

偽陽性は、検体に何らかの理由で他人のウイルスが混入することが原因になる場合が多いようです。
他人のウイルスが混入する場面はいくつかの可能性が考えられますが、検体の処理中に混入してしまう不具合に対しては、検査キットでの対策も行われています。

タカラバイオ
PCRキャリーオーバーによる偽陽性防止に

ロシュ
ロシュ独自の精度管理(偽陽性防止)システム

ロシュ疑陽性防止システム

検体採取時に綿棒に他人のウイルスを含むエアロゾルが付着して偽陽性になるケースもあるようです。

そもそもPCRは、ウイルスの死骸を検出しても陽性になるようです。
感染研のSARSのPCRの説明 にこう書いてあります。

陽性結果の意味するところは、SARS-CoVの遺伝子断片(RNA)が検体中に存在するということである。この結果は、生きたウイルスがいるということではないし、他の人に感染を生じるのに十分な量いるというわけでもない。

新型コロナの感染者が症状がなくなってもなかなかPCRで陰性にならないという話を聞きますが、ウイルスの死骸が残っていて陽性になっている可能性もありそうです。

偽陰性や偽陽性の確率は、検体採取から検体処理までをどれだけ厳密に管理して行えるかによってかなり変わってくるように思います。

PCR検査の様子
東京都健康安全研究センター

検体採取のスキルや、検査機関の技術力や設備などの影響が大きそうです。
そういう意味でも、感度と特異度は上記のようなアバウトな値になってしまうのかもしれません。

そのアバウトな数字で考えると、PCR検査の数を増やすと膨大な数の偽陰性や偽陽性が出てしまう可能性はあります。
それは否定しませんが、、、

でも、それをPCR検査の対象者を制限する理由にするのはおかしいと思います。
感度が50%でも、検査すれば5割の感染者を検出することができます。
検査しなければ全く検出できませんし、適切な治療もできなくなります。

偽陽性は要注意だと思いますが、そういう可能性も考慮して、他の症状と合わせて総合的に診断する必要があると思います。
場合によっては、再度PCR検査を行うことを検討してもいいのかもしれません。

現在、新型コロナウイルス感染症の診断は、PCR検査の陽性をもって確定診断としているようですが、PCRの偽陰性や偽陽性の事はどの程度考慮されているのでしょう?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き

臨床的特徴と疫学的背景などから感染が疑われる者に対しては,喀痰,気道吸引液,肺胞, 洗浄液,鼻咽頭ぬぐい液ならびに剖検材料などを用いて, ウイルス分離またはPCR法による病原体の遺伝子検出を行い,陽性となった場合に確定診断となる.

ちなみにアメリカのCDCは、PCR検査を受けた人向けにこのような案内を用意しているようです。

CDC FACT SHEET
FACT SHEET FOR PATIENTS

この中には偽陽性と偽陰性についても記載されています。

There is a very small chance that this test can give a positive result that is wrong (a false positive result).
Your healthcare provider will work with you to determine how best to care for you based on the test results, medical history, and your symptoms.

However, it is possible for this test to give a negative result that is incorrect (false negative) in some people with COVID-19.
This means that you could possibly still have COVID-19 even though the test is negative.
If this is the case, your healthcare provider will consider the test result together with your symptoms, possible exposures, and geographical location of places you have recently traveled) in deciding how to care for you.

世の中には「陰性証明を出せ」と言う人がいるようですが、PCR検査の結果がどういうものか、もう少し周知してもよさそうな気がします。