PCR検査、複数の検体を混ぜて検査数を拡大する「グループ検査」

武漢の全市民(1100万人)のPCR検査でも「グループ検査」を検討しているようです。

毎日新聞(2020/5/17)
中国・武漢で全市民にPCR検査 「1000万人規模」意義に疑問の声

中国で新型コロナウイルス感染が最初に確認された人口約1100万人の湖北省武漢市が、全市民を対象にしたPCR検査(遺伝子検査)をしている。市内の各地区で5月14日前後に始め、約10日間程度で終えるという。

地元紙・湖北日報(電子版)によると、市内には386カ所の検体採取場があり、1日に最大10万人分の検査能力があるという。ただ、それでも今回の目標の1日100万人との差は大きい。このため市保健当局は、10人分の検体を一度に混ぜて検査し、陽性が出た場合にのみ、その10人をそれぞれ再検査する手法を検討。湖北省保健当局と関連企業が妥当性に関する研究を進めている。

普通にPCR検査していたらとても10日では終わらないので、10人分の検体を一度に混ぜて検査するようです。

そんな事ができるのか?
と思ったのですが、特に新しい方法ではないようです。
 

SmartFLASH(2020/5/9)
PCR検査を増加させるには…アメリカの荒業は「検体まとめて」

新型コロナウイルスの検査数は増やしたいが、検査薬に限りがある。
多くの自治体が同じ悩みを抱えているなか、アメリカでは1つのPCR検査薬を5人で使うという荒業で検査するところが出てきた。
アメリカ中西部にあるネブラスカ州だ。

実は、この検査方法には、きちんと検証された論文がある。医師たちがいくつものグループテストを重ねて編み出した手法で、コロナウイルス患者が10%以下なら試薬と人件費が節約でき、テスト能力が全体で69%以上向上するという。ちなみに、第2次世界大戦のとき、アメリカ軍に梅毒が流行したときもグループ検査が使われている。

この記事の元ネタかもしれない、ニューヨークタイムズの記事
Five People. One Test. This Is How You Get There.
 

また、かつては献血の検査でも使われていたようです。

朝日新聞デジタル(2020/5/18)
多くの検体「まとめて」PCR検査で、件数を増やせる?

1999年に献血検体に対するPCR検査が導入されましたが、当時は一度に大量の検体を検査できませんでした。なので、500人分の検体をまとめたものを検査していました。理論的には500検体のうち1検体にでもウイルスが含まれていれば、ウイルスの核酸は増幅され陽性に出るはずです。実際には多人数の検体をまとめると希釈され感度が落ちますので、一度にまとめる検体の数は2000年には50検体、2004年には20検体になりました。
2014年には献血検体を個別に検査するようになりました。きわめてまれですが、20検体をまとめる方法でも検査をすり抜けることがあったためです。

 
新型コロナのPCR検査で、複数の検体をグループ検査する場合の論文を見つけました。

Group Testing for COVID-19: How to Stop Worrying and Test More
 

この図は8つの検体の中に陽性が1つある場合の例です。

1.8検体を4検体ずつまとめてPCR検査(Group1,Group2)
2.陽性だったGroup2の中の4検体を2検体ずつPCR検査(Group3,Group4)
3.陽性だったGroup3の中の2検体を1検体ずつPCR検査(Group5,Group6)

こうすることで、8検体のPCR検査を6検体分の検査でできるようになります。
この場合はテスト数を25%削減したことになります。

この例は陽性率が12.5%なのでこの程度の削減効果ですが、もっと陽性率が低い場合は削減効果が大きくなります。

武漢のような場合で、
・検体数が1100万、
・陽性率が1%(11万)、
・10検体を1件にまとめる
・陽性の検体に偏りがない
として、

1.110万件の検査をして陽性が11万件出る
2.陽性11万件の中の検体を1つずつ検査する(110万件)

とすると、220万件分の検査で1100万検体を検査することができます。

このグループ検査はあくまでもPCR検査自体の件数を削減するアイデアなので、検体の採取や運搬の作業は変わりません。
それでも試薬の量を削減できたり、トータルの時間短縮の効果はありそうです。

実際にやる場合は、検体を混ぜる作業などの作業効率も重要になってくると思います。
作業ミスも要注意だと思います。
すべて自動化できればいいかもしれませんが。
 

はたして武漢は上手くいくでしょうか。
全市民PCR検査で感染を封じ込めることができるか、非常に興味深いです。