マイナンバーと口座番号のひもづけ、政府が勝手にやるらしい

「すでに分かっているものは登録してしまえー」ということでしょうか・・

朝日新聞(2023/1/11)
年金や児童手当などの口座、マイナンバーにひもづけ デジ庁検討

マイナンバーの利用拡大をめざす政府は、自治体などが保有する住民の預貯金口座番号などを、マイナンバーにひもづく公金受取口座として登録する新たな仕組みを導入する方向で調整している。
対象として、公的年金や児童手当の口座などが挙がる。
本人が不同意の意思を示さなければ「同意」とみなすやり方を想定しており、有識者からは「慎重に進めるべきだ」と懸念の声も出ている。
 

本人が拒否の連絡をしなければ、現在公金の受け取りに使っている口座が勝手に登録されてしまうようです。


マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ(第7回)
 

この「公金受取口座」の登録ですが、一番のポイントは、国民の預貯金の口座番号を国(デジタル庁)が一括管理して、その口座番号を必要な行政機関が取得できることだと思います。


Impress Watch (2022/9/9)

従来は、個々の行政機関がそれぞれ必要な口座番号を取得・管理していたので、その口座番号が使われる範囲は限定されていました。
ところが、この「公金受取口座」に登録した口座番号は、どの行政機関でも「公的給付の支給等」の目的であれば取得できることになっています。

e-gov法令検索
公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律

(公的給付支給等口座登録簿に関する情報の提供の要求)
第九条 行政機関の長等は、公的給付の支給等に係る金銭の授受をするために必要があるときは、内閣総理大臣に対し、公的給付支給等口座情報の提供を求めることができる。

現在、公金受取口座が利用できる給付金はこれだけあるそうです。

公金受取口座を利用して受け取ることができる給付金等

1.年金関係
2.税関係
3.子育て給付関係
4.就学支援関係
5.障害福祉関係
6.生活保護関係
7.労災保険・公務災害補償関係
8.失業保険関係
9.職業訓練給付関係
10.健康保険関係
11.介護保険関係
12.災害被災者支援関係
13.その他

デジタル庁が公表しているExcelファイル には、現在155種類の給付金が記載されています。

「公金受取口座」に登録した口座番号は、様々な行政機関が取得する可能性があります。
そして、取得した口座番号を金融機関に照会すれば、預金残高などを確認することも可能です。
口座の本人が知らないところで、どこかの行政機関に残高を把握されることも、あり得ない話ではないと思います。
 

政府が半分強行的な手段で「公金受取口座」を登録させようとしているのは、おそらく、国民の預貯金の調査効率向上のためではないでしょうか。

税務調査をはじめ、生活保護や介護保険など、行政機関が国民の預貯金などを調査する場合がありますが、いまだに紙と郵送で行っている場合が少なくないようです。


介護保険法第 203 条の規定に基づく調査について

一方、デジタル化による効率向上も進められています。

NTTデータのpipitLINQ(ピピットリンク) です。


NTT DATA pipitLINQ

2021年秋には国税庁にも導入されたそうです。

作業時間55%減を実現した「pipitLINQ」 ~国税庁への導入で加速する金融・行政のDX~

社会保障の安定的な運用および税の公平性担保のため、行政機関が金融機関に口座の取引状況を問い合わせる「預貯金等照会」業務は年間約6000万件にも上る。長年、紙の資料をもとに手作業で行われてきたこの業務をデジタル化し、生産性を飛躍的に向上させたサービスがNTTデータの「pipitLINQ」だ。2021年秋には国税庁にも導入され、行政・金融業界を横断するDXは今、一気に加速している。

このシステムを使うと、導入されている金融機関であれば、複数の金融機関でも一度にまとめて口座の情報を照会することができます。
従来の紙と郵送のやり方と比べて、照会の効率は雲泥の差だと思います。

マイナンバーの対応も予定しているようです。


pipitLINQ よくあるご質問

将来的には、このpipitLINQが公金受取口座のシステムと連携する可能性もあるかもしれません。
そうなったら、国民の預貯金を調査する効率はさらに向上するでしょう。
 

医療や介護の自己負担を、所得だけでなく、資産の状況によっても差をつけようという議論は以前から行われていました。


資料1-5 負担への金融資産等の保有状況の反映の在り方について

「公金受取口座」というコロナ禍に便乗した新たな制度によって、社会保障の「資産に応じた負担」の議論が今後進むかもしれません。
 

ちなみに、コロナ以前からある「預貯金口座付番制度」は、「公金受取口座」とは別の制度なので、「公金受取口座」で資産調査が行われることはない。といった記事を時々見かけますが、


日本経済新聞(2022/1/25)

そんな事は、法律とシステムの作り方次第でどうにでもなる事だと思います。

厚労省のQ&A には、
税務調査等の法令に基づく場合においては、公金受取口座の登録の有無に関わらず、従前どおり預貯金口座の残高や取引記録等が確認されることがあります。
と書かれています。

 
政府は年金についても、あの手この手で制度を維持しようとしています。

朝日新聞(2021/9/11)
基礎年金の目減り対策、制度改革に着手へ 厚生年金の一部回す案も?

物価に関連して年金額を抑える仕組みに伴い、将来受け取る基礎年金水準が減る問題で、田村憲久厚生労働相は10日、給付水準が目減りしすぎないようにする制度改革の検討を始めたことを明らかにした。

朝日新聞(2022/10/26)
国民年金の保険料納付「64歳まで」5年延長へ 国が本格検討を開始

国民年金(基礎年金)の保険料を支払う期間について、厚生労働省は現在の40年間(20歳以上60歳未満)から5年延長し、64歳までの45年間とする方向で本格的な検討に入った。

少子高齢化で10年後も安心できない日本の年金制度ですが、将来、預貯金の残高に応じて年金の受給額が変わる時代が来ても、不思議ではないような気がします・・