戦時中の防空法とマイナンバーカード
政府がマイナンバーカードの普及に躍起になる理由の1つに、こういう事もあるのではないでしょうか。
毎日新聞(2023/8/14)消火せず避難は「非国民」 青森空襲、死者1000人の裏に“脅し”
Yahoo!ニュース(上の記事の有料部分)太平洋戦争末期、日本の各都市は米軍による空襲に見舞われた。
主な大都市が焼き尽くされると、1945年6月ごろからは全国の中小都市が標的になった。
空襲では消火に当たることが国民の義務であり、避難するのは「非国民」――。国はそう国民に呼び掛けた。「一部に家をからっぽにして逃げたり、といふものがあるさうだが、もっての外(ほか)である。こんなものは防空法によって処罰出来る」。
避難は「非国民」 青森空襲で被害を拡大させた行政の“脅し”
防空法は国民に消火を義務付け、避難を制限していた。
政府が国民向けに作った防空マニュアル「時局防空必携」では「命を投げ出して持ち場を守ります」という「誓い」も掲げられている。
政府はこうしたマニュアルやポスターで焼夷弾を「恐ろしいものではない」と宣伝し、国民にバケツリレーの訓練を繰り返させていた。青森市の対応も、拍車をかけた。「28日までに(自宅に)復帰しなければ、町会の人名台帳より抹消する。物資の配給は受けられなくなる」と通告した。
日本政府は、空襲が予定されていることが分かっていても、避難することを禁止し、消火活動に従事することを義務付けたそうです。
爆弾が投下された後、迅速に飛び出して消火作業に従事できるように、政府は家の床下にこのような待避所を作ることを推奨していたようです。
現代ビジネス(2017/8/14)「空襲から絶対逃げるな」トンデモ防空法が絶望的惨状をもたらした
SYNODOS(2015/3/10)しかし、床下で焼夷弾の落下を察知したときには、すでに猛火に包まれて脱出不能である。こんな「安全神話」を疑うことは許されなかった。空襲時には、崩壊した建物の床下で圧死・窒息死・生き埋めとなる被害が続出した。
「空襲は怖くない。逃げずに火を消せ」――戦時中の「防空法」と情報統制
避難の禁止。なぜ、このような方針がとられたのだろうか。逆に「空襲のときは逃げなさい、自分の命を守りなさい」と指導して、労働力や兵力を保全する方が合理的ではないか。
この謎を解くカギが、帝国議会での防空法改正審議にあった。陸軍省の佐藤賢了軍務課長(のちの陸軍中将)は、衆議院で次のように演説している。
「空襲の実害は大したものではない。それよりも、狼狽混乱、さらに戦争継続意志の破綻となるのが最も恐ろしい。」(昭和16年11月20日 衆議院 防空法改正委員会)
日清・日露戦争以来、戦争に負けたことも空襲を経験したこともない国民は、空襲被害が「大したものではない」という虚偽を見破ることはできなかった。他方、戦争継続意志の破綻が「最も恐ろしい」というのは、戦争遂行者として正直な告白であろう。退去を認めると、都市部で軍需生産にあたる労働人口が流出する。逃避的・敗北的観念や反戦感情も醸成されかねない。それを怖れた政府は、「空襲は怖くないから逃げる必要はない」と宣伝した。
冒頭の毎日新聞の記事によると、
「逃げれば非国民にされるという社会的強制が、犠牲者の拡大につながった」
ということですが、社会の同調圧力に加えて、「空襲は怖くない」という政府のプロパガンダの効果もあったのでしょう。
もし、今後日本で同じような事態になったら、どれだけの人が政府の命令に従って、家の床下で「座して死を待つ」のでしょう?
さすがに今の政府は床下に穴を掘れとは言わないと思いますが(実際問題としてベタ基礎だと簡単に掘れない)、空襲やミサイル攻撃を想定した避難所も避難計画もほとんど用意されていない現実を考えると、国民に何らかの行動制限を強いる可能性はあると思います。
そうなったら、当然、政府の命令に従わない人が出てくるでしょう。(自分の身を自分で守るために)
そこで、政府はマイナンバーカードを使うはずです。
マイナンバーカードは「デジタル社会のパスポート」です。
今後、社会の様々な場所でマイナンバーカードの提示(スキャン)を求められるようになる可能性があります。
そうなると、誰がいつどこにいたか、政府は即座に把握できるようになります。
政府に知られずに行動することは、非常に難しくなります。
政府がその人に許可していない施設には入れなくなり、許可していないサービスは利用できなくなります。
公共交通機関で移動した場合も、政府に把握されるようになる可能性があります。
読売新聞(2022/12/23)マイナカードとSuica連携、運賃・買い物での割引が簡単に…来年度にも全国展開
政府は、マイナンバーカードと「Suica(スイカ)」や「PASMO(パスモ)」などの交通系ICカードを連携させ、地方自治体による高齢者や住民限定のバス運賃割引などを簡単に受けられるサービスを全国で推進する方針を固めた。
マイナンバーカードとSuicaを連携させて、住民限定の割引を行うということは、Suicaをタッチした時に、住民かどうかをチェックできるということです。
住民でない人は行動制限に違反していると判断されて、乗車拒否されると同時に、役所に通知が行く可能性があります。
自家用車で移動した場合も、政府に把握されるようになる可能性があります。
マイナンバーカードを使って高速料金の割引などを申請した場合は、高速道路の出入りを政府に把握されることになります。
日本経済新聞(2022/2/22)高速料金割引、マイナカードで申請 22年度から国交省
国土交通省は高速道路料金の割引申請にマイナンバーカードを活用する。2022年度中に申請システムを整備し、障害者割引から適用を始める。運用実績を踏まえ、自然災害の被災者など特定地域を対象にした住民割引にも機動的に活用できる仕組みを検討する。
そもそも、どの自動車がいつどこを走ったかは、Nシステム(自動車ナンバー自動読取装置)が全国の主要道路に設置されているので、既にかなり把握できるようになっていると思われます。
さらに、国土交通省は「可搬式ナンバー自動読取装置」の導入も進めています。
日本自動車会議所(2023/5/17)国交省、無車検・無保険車対策を強化 ナンバー自動読取装置運用増やす
車検切れで公道を走行する無車検車の摘発と運転者に直接指導・警告する取り締まりを強化する。警察と連携して全国で行う街頭検査で使用する「可搬式ナンバー自動読取装置」の運用台数を増やす。
この装置は、自動車登録検査業務電子情報処理システム(MOTAS)上の無車検車情報をカメラで読み取ったナンバー情報と照合し、該当車を瞬時に割り出して通知するもので、19年度から配備された。
車検の情報を瞬時に照合できるということは、その車の所有者の住所もチェックできるはずです。
所有者が地元以外の人の場合は、行動制限に違反している可能性があると判断されて、取り締まりの対象になるかもしれません。
また、マイナンバーカードを使えば、疎開の対象者の判別も簡単です。
地方へ移住する「疎開」も厳しく制限された。
1944年3月3日の閣議決定「一般疎開促進要綱」は、防空目的で自宅を強制撤去(建物疎開)された者や高齢者・幼児・病人などを疎開の対象者と認め、それ以外は後回しにした。
高齢者や幼児は生年月日で選別し、病人や妊婦はマイナンバーに紐づいた医療情報で選別することになるでしょう。
疎開の対象者かどうかは、マイナンバーカードをカードリーダーにかざすだけで、即座に判別できます。
疎開の対象でない人が自宅から遠く離れた所にいるのを警察官に見つかったら、その場で強制帰宅させられるかもしれません。
青森市長は避難している市民に「期日までに戻らないと食料の配給を停止する」と言ったそうですが、配給の管理もマイナンバーカードを使えば簡単にできるでしょう。
(参考)マイナンバーカードは配給切符のデジタル版か?
とにかく、戦争のような有事になると、マイナンバーカードは抜群の威力を発揮することになりそうです。
国民の自由や権利を制限することも、政府の命令に従わせることも、データの設定次第で簡単できそうです。
政府の命令に従わない人は、マイナンバーカードを無効にされ、配給を受けることも、医療を受けることも、電車に乗ることもできなくなるかもしれません。
今の法律では無理でも、自民党の改憲草案にある「緊急事態条項」が成立したら、合法的に可能になるでしょう。
マイナンバーカードにまつわる政府と自民党の動向には、十分警戒した方がよさそうな気がします・・