トリチウムと放射性セシウムの海産生物への蓄積

これでは安心材料になりません。

毎日新聞(2023/9/6)
海産物にトリチウムは蓄積せず 福島大など、タコなど9種調査

福島大などの研究チームは6日、青森、岩手両県の沿岸部を調査した結果、海産物に放射性トリチウムは蓄積しないことが分かったと発表した。

調査は海洋放出前に行われたが、福島大環境放射能研究所の高田兵衛(ひょうえ)准教授(海洋化学)は「同じトリチウムであり、福島でも濃縮は基本的にないと考えられる」と話した。

研究チームは、使用済み核燃料を取り扱う日本原燃の再処理工場がある青森県と、岩手県の沿岸部で、2003~12年度の海水と海産物のデータを分析。トリチウム濃度の変化や蓄積量を放射性セシウムと比較した。
論文は8月13日に日本海洋学会の英文誌「ジャーナル・オブ・オーシャノグラフィー」に掲載された。

10年以上前のデータを持ってきて最近発表したようですが、誰に頼まれて書いたのでしょう?

福島大学のプレス発表資料にもう少し詳しい説明があります。

福島大学(2023/9/6)
海洋環境でのトリチウムおよび放射性セシウムの海産生物への蓄積の比較について

2003年度から2012年度にかけて、東日本北太平洋沿岸海域(青森、岩手県の沿岸)において、海水と海産生物中のトリチウム濃度の時間的変化や海産生物への蓄積量について放射性セシウムと比較しました。
トリチウムは六ヶ所村の原子燃料再処理施設のアクティブ試験(2006~2008年度)の間に一部上昇が見られたものの、その後は速やかに減少しました。また、福島第一原発事故による影響は見られませんでした。
放射性セシウムはアクティブ試験の影響は無かった一方、事故後上昇し、その後は緩やかに減少しました。
海産生物への蓄積については、放射性セシウムは蓄積が確認されましたが、トリチウムは蓄積しないことから、トリチウムと放射性セシウムの海産生物への蓄積過程が異なることを示唆しました。

(参考)アクティブ試験の概要
アクティブ試験では、実際の使用済燃料を用いて、プルトニウムや核分裂生成物の取り扱いに係る、再処理施設の安全機能および機器・設備の性能を確認するものですが、具体的には、核分裂生成物の分離性能、ウランとプルトニウムの分配性能、環境への放出放射能量、放射性廃棄物および固体廃棄物の処理能力などの確認を行います。

 

海水中のトリチウムと放射性セシウム(セシウム-137)濃度の経年変化

トリチウム濃度
アクティブ試験前の平均値は表層が 0.14 Bq/L、下層が 0.12 Bq/L でした。アクティブ試験期間中ではいくつかの測点で試験の影響が見えましたが、最大でも1.3 Bq/Lの上昇でした
試験後の 2009 年度以降はすぐに試験前の値に戻り、また、福島第一原発事故の影響は見られず、平均は表層が 0.11 Bq/L、下層が 0.10 Bq/L でした。


 
放射性セシウム濃度
アクティブ試験の前中後で試験の影響は見えませんでしたが、福島第一原発事故により最大 0.37 Bq/L まで上昇し、その後は緩やかな減少が見られました。

 

海産生物中のトリチウムと放射性セシウム濃度の経年変化

トリチウム濃度
アクティブ試験前での平均は、組織自由水が 0.14 Bq/kg-生鮮物、有機結合型が0.04 Bq/kg-生鮮物でした。
アクティブ試験中ではいくつかの試料で試験の影響が見られ、最大で組織自由水が 8.1Bq/kg-生鮮物、有機結合型が 0.49 Bq/kg-生鮮物(ともにカタクチイワシ)でした。
試験後の2009年度以降はすぐに試験前の値に戻り、また福島第一原発事故の影響は見られませんでした。
試験後の平均は、組織自由水が 0.10Bq/kg-生鮮物で、有機結合型が 0.05 Bq/kg-生鮮物となりました。


 
放射性セシウム濃度
海水中放射性セシウムと同様に、アクティブ試験の影響は見えませんでしたが、福島第一原発事故により最大 11 Bq/kg-生鮮物まで上昇しました。
その後は海水同様に緩やかな減少でした。

 

トリチウムと放射性セシウムの海産生物への蓄積過程について
トリチウムと放射性セシウムの海水から海産生物への蓄積を確認するために、海水濃度と海産生物の濃度変化が少ない時期(トリチウムは2003~2005年度、2009~2012年度、放射性セシウムは2003~2010年度)において、海産生物‐海水濃度比(または濃縮係数)を求めました。
その結果、組織自由水のトリチウム濃度比は種類毎の平均が 0.84~1.3 でした。これは、トリチウムは海産生物へ蓄積しないことを示しています。
一方、放射性セシウムは同じ種類毎の濃度比が32.5~74.4であったことから、放射性セシウムは海産生物へ蓄積することがわかり、トリチウムと放射性セシウムの海産生物への蓄積過程が異なることを示唆しました。

 
この論文の結論を簡単にまとめると、
・トリチウムは海産生物に蓄積しない。
・放射性セシウムは海産生物に蓄積するが、トリチウムとは蓄積過程が違う。
ということだと思います。

とにかく、
「トリチウムは海産物に蓄積しないから安心してください。」
と言いたい気持ちが伝わってきますが、この結論をそのまま福島原発の処理水放出に当てはめることはできないと思います。

1つはトリチウムの放出期間の違い。
六ケ所村のアクティブ試験の期間は2006~2008年度の3年間で、この調査はその前後の期間(2003~2005年度と、2009~2012年度)のトリチウム濃度を比較して、ほとんど変わらないから蓄積しないという結論になっています。
福島の処理水の放出は、今後数10年間(東電の予定では30年程度)続くことになっています。
3年間で放出を終えた六ケ所村とは状況が全く違います。

もう1つは海水のトリチウム濃度。
六ケ所村のアクティブ試験中の最大濃度は1.3Bq/Lということですが、すでに福島の海水から10Bq/Lが検出されています。

福島民友新聞(2023/9/2)
東京電力、1地点からトリチウム 放出口の近く、基準は下回る

東京電力は1日、福島第1原発で発生する処理水の海洋放出後に原発の3キロ圏内で行っている海域モニタリング(監視)について、10地点で8月31日に採取した海水の放射性物質トリチウム濃度を分析した結果、1地点で1リットル当たり10ベクレルのトリチウムが検出されたと発表した。

ちなみに、福島の処理水は、
・放出前は1500Bq/L未満
・発電所から3km以内の調査レベルは350Bq/L以下
・発電所から10km内の調査レベルは20Bq/L以下
・東電の迅速測定の検出限界値は6~7Bq/L未満
です。
東電の海域モニタリング計画の検出限界値は0.1Bq/Lだそうですが、月に1回しか測定しないようです。
(参考)
福島第一原子力発電所周辺の放射性物質の分析結果
福島第一原子力発電所 海域モニタリング計画(2023年8月改定)

 
セシウムの蓄積も気になります。
福島原発の事故後の海水の最大値は0.37Bq/Lですが、海産生物に最大74倍まで蓄積しています。
今後、処理水を30年間放出し続けたらどうなるのでしょう?

今後の調査結果が気になります。


水産庁 水産物の放射性物質調査の結果について

政府、東電、専門家の方々には、本当に安心材料になるデータを公表してほしいものです・・