ノババックスのワクチンは何がいいのか?
以前から度々話題になっているノババックス社の新型コロナワクチンですが、実際の安全性や有効性はどうなのでしょう?
武田薬品工業ニュースリリース(2021/8/7)Novavax社と武田薬品による日本における新型コロナウイルス感染症ワクチンに関する提携について
武田薬品工業ニュースリリース(2021/9/7)次世代ワクチン開発を行うバイオテクノロジー企業Novavax, Inc.(以下「Novavax社」)と武田薬品工業株式会社(以下「武田薬品」)は、このたび、Novavax社が開発中の新型コロナウイルス感染症ワクチンNVX-CoV2373の日本における開発、製造、流通に向けた提携に関して基本合意しましたのでお知らせします。
NVX-CoV2373は、Novavax社の遺伝子組換えたんぱく質ナノ粒子技術を用いた安定したプレフュージョンたんぱく質であり、Novavax社が特許を有するアジュバント「Matrix-M」を含有しています。
武田薬品は Novavax社からのワクチン製造技術の移転、生産設備の整備、およびスケールアップの資金として、厚生労働省から助成金を受領します。
武田薬品は年間2億5千万回分以上の新型コロナウイルス感染症ワクチンの生産能力を整備することを見込んでいます。
日本政府による当社が製造するNovavax社の新型コロナウイルス感染症ワクチン候補1億5,000万回接種分の購入について
当社は、このたび、Novavax, Inc. (以下、「Novavax社」)の新型コロナウイルス感染症ワクチン候補であるTAK-019の製造販売承認取得を条件として、当社が日本で生産するTAK-019について厚生労働省が1億5,000万回接種分を購入する契約を締結したのでお知らせします。契約の詳細については非開示です。
このワクチンは、現在日本で接種されているmRNAワクチンやウイルスベクターワクチンとは違い、組換えタンパク質ワクチン(Recombinant protein)と言われているタイプです。
保存温度は2~8℃なので普通の冷蔵庫で保存できます。
NOVAVAX Corporate overview and investor deck
NOVAVAX Efficacy data updates from Novavax' protein-based vaccine candidate
mRNAワクチンとウイルスベクターワクチンは、接種後に人の体内で抗原のスパイクタンパク質を作るようになっていますが、組換えタンパク質ワクチンは、あらかじめ工場で作られたスパイクタンパク質をそのまま体内に注射するところが一番の違いです。
抗体を作るための抗原は人の体にとっては異物なので、それを体内で大量に作らせることに抵抗がある人は少なくないと思いますが、組換えタンパク質ワクチンは仕組み的にそのような事はありません。
また、mRNAワクチンのmRNAやウイルスベクターワクチンのDNAが血管やリンパ節に入った場合、様々な臓器に入り込んでスパイクタンパク質が作られて、重篤な副反応の原因になる可能性が指摘されています。
組換えタンパク質ワクチンの場合は、体内で新たなスパイクタンパク質を作り出すことはないので、そのようなリスクは低いと思います。
一方、組換えタンパク質ワクチンには、接種後の免疫反応を高めるためのアジュバント(補助剤)が入れてあります。
ノババックスの新型コロナワクチン(NVX-CoV2373)では、ノババックスが独自開発した"Matrix-M"というサポニンをベースにしたアジュバントが使われています。
組換えタンパク質ワクチンのアジュバントは、ワクチンの有効性や安全性に大きく影響する重要な要素だと思います。
Wikipedia
によると、QS-21という試験用ワクチンの添加剤にもサポニンが使われているようですが、臨床試験レベルなので使用実績はあまり多くないかもしれません。
Matrix-Mの安全性はどうなのでしょう?
イギリスで行われたNVX-CoV2373の第3相の臨床試験(約15000人)の副反応の結果は以下のようになっています。
NOVAVAX Corporate overview and investor deck
これを見る限りでは、今使われているファイザーやモデルナのmRNAワクチンより少し軽い位の副反応という感じでしょうか。
でも、ファイザーのように日本人は欧米人より副反応が出やすいという場合もあるので、あまりこれだけで決めつけない方がいいかもしれません。
NVX-CoV2373のADE(抗体依存性感染増強)に関する情報は、見つかりませんでした。
ADEの対策は特にない?
以下はNVX-CoV2373の有効性です。
NOVAVAX Corporate overview and investor deck
全体的な有効性は90%という数字になっていますが、これは従来株とアルファ株に対する有効性です。
南アフリカ由来のベータ株(B.1.351)に対しての有効性は51%です。
デルタ株に対する有効性は公表されていないようです。
このワクチンも現行のmRNAワクチンと同様に、月日の経過とともに抗体価が低下するようです。
NOVAVAX Corporate overview and investor deck
ノババックスは最初から3回接種を前提に考えているのでしょうか?
NOVAVAX Press Release (2021/8/5)Novavax Announces COVID-19 Vaccine Booster Data Demonstrating Four-Fold Increase in Neutralizing Antibody Levels Versus Peak Responses After Primary Vaccination
NOVAVAXはブースター接種によって抗体レベルが一次接種後の4倍に増加したことを発表
NVX-CoV2373の6か月での単回追加接種によって、一次接種後と比較して中和抗体が4倍以上に増加しました。
血清の分析でも、アルファ、ベータ、デルタ変異体に対する交差反応性の機能的抗体が示されました。これらはすべて追加接種により6~10倍に増加しました。
NVX-CoV2373の有効性は、全体的には現行のmRNAワクチンとほぼ同等といったところでしょうか。
また、副反応や安全性については、
・mRNAワクチンのようなスパイクタンパク質が体内の様々な所で作られることによるリスクはない
・mRNAワクチンのようなスパイクタンパク質が重篤な副反応を起こすリスクは低そう
・アジュバントに関しては未知の部分があるかもしれない
・接種直後の副反応は現行のmRNAワクチンより少し軽い程度か?
・ADEの懸念は現行のmRNAワクチンと同様か?
といった感じでしょうか。
冒頭の武田薬品のプレスリリースにもあるように、このワクチンは国内で生産されるので、供給面の安心感はありそうです。
また、アジュバントのMatrix-MはAGCで製造するようです。
AGCプレスリリース(2020/6/4)
Novavaxから新型コロナウイルス感染症ワクチン候補アジュバントの製造を受託
ただし、ちょっと気になる話もあります。
FIERCE Pharma(2021/4/13)Plastic bag shortage a hefty problem for Novavax's COVID-19 vaccine production push
ワクチン細胞の増殖に使用される大型の滅菌バッグが不足しているため、COVID-19ショットの生産を拡大するNovavaxの作業が妨げられています。
3月下旬、欧州連合の関係者はロイター通信に対し、ノババックスは一部の原材料の確保に苦労していたため、COVID-19ワクチンをEUに供給する契約の締結を延期したと語った。
細胞の培養で使う2000リットルの滅菌バッグとフィルターの不足が生産上のボトルネックになる可能性があるということです。
武田薬品が原材料や備品を全て国内で調達するなら問題ないかもしれませんが、どうなのでしょう?
ちなみに、塩野義製薬も組換えタンパク質ワクチンを開発しています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンS-268019の新製剤を用いた 第1/2相臨床試験の進捗に関するお知らせ
この臨床試験の結果、中和抗体価が不十分だったようです。
安全性の観点からTh1/Th2バランスを重視して選択したアジュバントを用いて、2020年12月より第1/2相臨床試験を実施してきました。その後の種々の検討結果や集積された知見を踏まえ、Th1/Th2バランスを維持しつつもより高い中和抗体価の誘導が必要と判断し、アジュバントを変更した新製剤を用いて、2021年7月末より国内における第1/2相臨床試験を新たに開始しました。
アジュバントを変更して、年度内の提供は間に合うのでしょうか?
塩野義製薬のワクチンはADEの回避もしようとしているようなので、上手くいけばノババックスより安全性は高いかもしれません。
でも有効性はどうなのでしょう?
もう少し様子を見たい気がします。