日銀総裁の「全体として円安はプラス」は本当か?

「全体」って、何のことを言っているのでしょうか?

日本経済新聞(2022/4/28)
円安阻止より金利抑制 日銀、長期緩和抜けられず

日銀の黒田東彦総裁は28日の金融政策決定会合後の記者会見で「全体として円安はプラス」と強調した。
円安阻止よりも金利抑制による景気下支えを優先する姿勢を改めて鮮明にした。
ただ、輸入価格を押し上げる円安は企業による値上げを通じて国民負担を増大させる
日本の産業構造が変化するなか、企業の利益を押し上げる効果も低下している。

「全体として円安はプラス」の根拠がよく分かりません。
円安を懸念する発言はいろいろ出ています。

テレ朝news(2022/4/7)
「中小企業にメリットなし」日商会頭が円安ドル高に懸念

日本商工会議所・三村明夫会頭:「海外輸出をほとんどやらない、海外事業をやっていない中小企業にかかわらず、中小企業にとって円安はメリットはほとんどない。デメリットの方が大きい。一般の消費者にとっても全く同じようなことが言える」

朝日新聞(2022/4/14)
ユニクロ柳井氏、円安は「日本全体からみたらデメリットばかり」

ユニクロは海外の売上高が大きく円安は業績を押し上げる効果もあるが、柳井氏は「円安のメリットは全くありません。日本全体からみたらデメリットばかりだ」とした。日本は世界中から原材料を仕入れて加工し、付加価値をつけて売っていると指摘。「自国通貨が安く評価されることはプラスにならない。円安の行方を心配している」と述べた。

 
日本はかつては輸出大国でしたが、最近は輸入額の方が多い年が増えています。


財務省貿易統計 輸出入額及び差引額の推移(1950~2020年)

2021年度は5兆円以上の貿易赤字です。

日本経済新聞(2022/4/20)
2年ぶり貿易赤字、2021年度5兆3748億円 資源高響く

輸出額は23.6%増の85兆8785億円、輸入額は33.3%増の91兆2534億円だった。輸出、輸入額とも過去最高だった。円の対ドル相場が20年度平均の1ドル=106円04銭から、21年度は111円91銭と円安に振れた影響が大きい。

2022年はもっと円安が進んでいる上、原油価格も高騰しているので、さらに貿易赤字が増えそうです。
日本全体の貿易収支で見ると、今の円安はマイナスでしょう。

一方、海外との取引全体の経常収支は黒字です。


内閣府 対外収支の構造変化

今の日本は、貿易ではなく第一次所得収支で稼いでいる国です。


内閣府 対外収支の構造変化

証券投資収支:債権利子・株式配当金
直接投資収支:海外子会社からの配当金等

日本は経常黒字の国ですが、その中身は投資による収益だということです。

海外に投資して得られた収益を日本円に転換すれば、円安のメリットがありそうです。
でも、どれだけの人がその恩恵を受けられるのでしょう?
海外進出した企業とか、海外株式を持っているとか、一部の人には恩恵がありそうですが。

日銀の「全体として円安はプラス」は、一般庶民を無視した日本の経常収支のことを言っているのでしょうか?

 
2022年1月の日銀の展望レポートに、円安のGDP,GNIに対する影響が記載されています。

日銀展望レポート(2022/1)
(BOX1)為替変動がわが国実体経済に与える影響


 
為替変動(以下、円安時を想定するが、円高時は方向が逆となる)が経済に影響を及ぼす経路は多岐にわたる。具体的には、
①輸出企業の価格競争力改善を通じた財輸出数量の増加
②円ベースでみた財輸出額の増加を通じた国内企業収益の増加
③サービス輸出(訪日外国人によるインバウンド消費)の増加
④海外からの所得のネット受取額の円換算値でみた増加(所得収支の改善要因)
⑤輸入コスト上昇による国内企業収益の下押しあるいは消費者の購買力低下
がある。

基本的な結果として、円安の実質GDPへの効果は、近年も含め、統計的に有意にプラスであることを確認できる(図表 B1-1①)。

もしかして、このコロナの影響もウクライナの影響も入っていない統計を用いて、「全体として円安はプラス」と言っているのでしょうか?

 
ちなみに、円安による株高効果は、今はほとんどないようです。


Chartpark

アベノミクスが始まった2013年頃から2015年頃までは円安に伴って日経平均も上昇しましたが、2021年以降の円安と日経平均株価は相関がありません。

ドル建ての日経平均は下落トレンドが続いています。


StockBrain

日本株に対しても「円安はプラス」ではなさそうです。

いったい、日銀の「全体として円安はプラス」の根拠は何なのでしょう?