インボイス制度で始まる「負担の押し付け合い」
こんなのは氷山の一角でしょう。
日本経済新聞(2023/8/26)インボイス巡りJT注意 葉タバコ価格下げ通告で公取委
10月に始まるインボイス(適格請求書)制度を巡り、日本たばこ産業(JT)が葉タバコ農家に一方的に取引価格の引き下げを通告していたことが26日、関係者への取材で分かった。
公正取引委員会は独禁法に違反する恐れがあるとして同社に注意したという。2029年までは、免税事業者との取引でも、一定の範囲で控除を認める経過措置が設けられているが、関係者によると、JTはこの措置があるにもかかわらず、農家に対し課税事業者にならなければ「消費税相当額を取引価格から引き下げる」と一方的に通告したという。
JTは取材に「経過措置に合わせ、当面3年間は転換しない農家に消費税相当額の8割を支払うことで合意した。今後も協議を続ける」とした。
このような立場的に強い企業が一方的に値下げを要求・お願い・相談するケースは、他にも日本全国でいくらでも行われているのではないでしょうか。
来月から始まろうとしているインボイス制度は、そういう制度だからです。
課税事業者の企業の取引先が免税事業者の場合について、簡単に図にしてみました。
まず、今まで(インボイス制度が始まる前)は、これで事業が回っていました。
課税事業者は、「販売代金の消費税」から「仕入代金の消費税」を引いた金額を、税務署に納税しています。
インボイス制度が始まると、企業(課税事業者)は以下のような対応を行うことになります。
1つは、課税事業者が新たな負担を受け入れるケースです。
インボイス制度が始まると、「仕入代金の消費税」を控除するためには、取引先からインボイスを受け取る必要があります。
しかし、免税事業者はインボイスを発行することができません。
課税事業者は、今まで控除できていた「仕入代金の消費税」を控除できなくなり、負担が増えます。
そこで、課税事業者は次の方法を考えます。
課税事業者が取引先に支払う代金を減らす方法です。
今まで控除されていた「仕入代金の消費税」の分を値下げしてもらえば、課税事業者の負担は今までと変わりません。
これがJTがやった方法です。
しかし、取引先(免税事業者)にとっては、いきなり収入が減るだけです。
快く受け入れることはできないでしょう。
値下げを受け入れてもらえない場合は、取引先に免税事業者をやめて課税事業者になることを求めます。
取引先が課税事業者になればインボイスを発行してもらえるので、今まで通り「仕入代金の消費税」を控除することができます。
でも今度は、取引先が「仕入代金の消費税」を納税しなければならなくなります。
取引先は、収入が減るか、納税が増えるかの選択を迫られることになります。
どちらも拒否した場合は、今後は取引自体が無くなってしまうかもしれません。
一方、取引先の方が立場が強い場合などは、販売価格を値上げして対応するケースも考えられます。
この場合は、販売先や消費者の負担が増えることになります。
このように、インボイス制度が始まると、「免税事業者からの仕入代金の消費税」という新たに発生する税金の負担を事業者間で押し付け合うことになります。
おそらく政府(財務省)は、あえて免税事業者はインボイスを発行できないという制度にして、事業者間で負担の押し付け合いをさせ、立場の弱い免税事業者を減らそうとしているのでしょう。
また、どのケースになっても、最終的には消費者の負担が増える方向になると思います。
国民全体の税負担は増え、物価が上昇することになります。
なお、今まで免税事業者は「仕入代金の消費税」の分を得していたのではないか?という多くの国民が騙されていたデマについては、前回のブログ
を参考にしていただければと思います。
公正取引委員会は、独禁法に抵触するおそれのある事業者にこのような注意をしたそうです。
経過措置により一定の範囲で仕入税額控除が認められているにもかかわらず、取引先の免税事業者に対し、インボイス制度の実施後も課税事業者に転換せず、免税事業者を選択する場合には、消費税相当額を取引価格から引き下げると文書で伝えるなど一方的に通告を行った。
ここで言っている「経過措置」は、3年間は8割、さらに3年間は5割、インボイスがなくても控除できるというものです。
この経過措置を理由に注意しているだけでは、一時的な時間稼ぎか気休め程度になるだけで、負担が増えることには変わりません。
負担の押し付け合いは今後も続きそうです。
ちなみに、個人タクシーは、課税事業者か免税事業者かが一目で分かるようになるそうです。
これも免税事業者を減らすための一種の圧力でしょうか。
あらゆる方面から増税の波がやってきそうです・・