プライマリーバランスを黒字化するとどうなるか

財務省はマネーストックへの影響をどう考えているのでしょう?

日本経済新聞(2024/7/1)
骨太の方針、消えた黒字「基調」 財政健全化の強度占う

今年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」は、3年ぶりに国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を2025年度に黒字化させる目標が明記された。

朝日新聞(2024/7/29)
基礎的財政収支「25年度は黒字」、政府が試算 実現なら34年ぶり


 
財政健全化の指標となる国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)について、政府は29日の経済財政諮問会議で、2025年度に0.8兆円の小幅な黒字になるとの試算を示した。

PBは、国債など借金の影響をのぞいた財政の収支。公共事業や社会保障、教育、防衛といった行政サービスの経費を、おもに税収でまかなえるかどうかを示す指標になる。


財務省「これからの日本のために 財政を考える」

 
財務省はとにかくプライマリーバランスを黒字化したいようですが、マネーストックへの影響をどう考えているのかが気になります。

「マネーストック」は、以前は「マネーサプライ」と言われていましたが、社会全体に出回っている通貨の総量のことです。

トウシル
マネーストック

金融機関から世の中に出回っている通貨の総量のことをいい、具体的には、一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有主体(=金融機関・中央政府以外の経済主体)が保有する通貨量の残高。
銀行が積極的に貸出しを行うとマネーストックは増加し、世の中に出回っている通貨量が増える事を意味する。一般的には、景気が良くなる方向にある。ただし、増えすぎると物価が上昇(インフレ傾向に)なってくる。
逆に、銀行の貸出しが減るとマネーストックは減少し、世の中に出回っている通貨量が減ることを意味する。一般的には、景気が停滞する方向にある。

マネーストックの変動は、景気に影響を与えることになります。
マネーストックを変動させる要因は3つあります。

1.金融機関が企業や個人に対する信用(融資)を増減させる場合。
2.金融機関や日本銀行が国債引き受けや償還などで政府に対する信用を増減し、政府がその資金を企業や個人に支出したり引き揚げたりした場合。
3.企業や個人が輸出や資本輸入、輸入や資本輸出によって海外と外貨を授受し、その外貨を金融機関との間で売買した場合。

(参考)マネー・サプライの増加について

マネーストックを増加させる基本は、個人や法人が金融機関から借金をすることです。
金融機関が融資をする時に、貸出先の口座に融資する金額を記帳することによって、世の中のお金が増えることになります。
それを「信用創造」と言います。

ちなみに、金融機関は誰かが預金したお金を別の人に貸している訳ではありません。それでは世の中のお金の量が増えないので、経済成長できません。
(参考)
「MMT派が唱える『日本は財政破綻しない』は本当なのか?」中野剛志と加谷珪一がMMTと主流派経済学の違いを解き明かす ダイジェスト

逆に、借金を金融機関に返済すると、マネーストックが減少することになります。

政府が国債を発行して金融機関から借金した場合も、信用創造が行われます。
そしてその信用創造されたお金を財政支出すると、マネーストックが増加することになります。

政府が税金を徴収して、信用創造された借金を返済すると、マネーストックが減少します。

なお、個人向け国債の場合は、個人が持っているお金を政府が使うことになるので、マネーストックの増減はありません。

また、海外から日本にお金が入ってくればマネーストックが増加し、日本から海外にお金が出ていけばマネーストックが減少することになります。

以上を簡単に図にすると、以下のようになります。


 

 

プライマリーバランスを黒字にすると、政府が社会全体にあるお金を吸収することになるので、民間の借金や海外との収支が変わらなければ、マネーストックが減ることになります。


 

プライマリーバランスの黒字化にこだわるのであれば、民間の資金需要の動向や、経常収支(CFベース)の動向なども十分検証して、景気への影響を見極める必要があると思います。

GDPや設備投資はまだ回復の兆しの状態だと思います。


財務省

マネーストックを絞ることになるプライマリーバランスの黒字化、
本当に2025年度にやってもいいのか。
政府・財務省は、極めて慎重な判断が求められるのではないでしょうか。