キャッシュレス推進のための新紙幣発行

新紙幣発行の政府の一番の狙いは、これでしょうか。

読売新聞(2024/6/28)
7月3日に新紙幣発行、券売機の交換「間に合ってほっとした」…キャッシュレス移行の店も

東京・大手町のラーメン店「銀座  篝かがり 」は、新紙幣発行に伴いキャッシュレス決済一本にした。店長は「売り上げの集計が短縮化できるし、外国人観光客も利用しやすいようだ」と語る。明治大の飯田泰之教授(経済政策)は「新紙幣発行を機に決済手段の基本が現金からキャッシュレスに逆転する可能性がある」と話している。

NHK NEWS WEB (2024/4/23)
7月新紙幣発行 キャッシュレス決済“だけ”に切り替えの動きも

ことし7月の新たな紙幣の発行にあわせて券売機などの設備を更新する企業の中にはキャッシュレス決済だけの対応に切り替える動きも出ています。

日経XTECH(2024/6/28)
新紙幣対応で民間企業は5000億円規模を投資へ、「現金廃止」にも緩やかな追い風

新紙幣はキャッシュレス化の流れに逆行するのではないか?
という話も聞かれますが、実際にはキャッシュレス化をさらに進めることになりそうです。

飲食店や駐車場や自販機は、このままキャッシュレス化する所も結構あるのではないでしょうか。

 
政府は以前からキャッシュレス化を推進しています。
経産省が2018年に公表した「キャッシュレス・ビジョン」には、以下のように記載されています。

キャッシュレス・ビジョン

【なぜキャッシュレスに取組むのか】
キャッシュレス推進は、実店舗等の無人化省力化、不透明な現金資産の見える化、流動性向上と、不透明な現金流通の抑止による税収向上につながると共に、さらには支払データの利活用による消費の利便性向上や消費の活性化等、国力強化につながる様々なメリットが期待される。

ここにはっきり明記されているように、政府がキャッシュレスを推進する一番の目的は、
「不透明な現金資産の見える化、流動性向上と、不透明な現金流通の抑止による税収向上」
にあることは間違いないでしょう。

政府は「決済のフルデジタル化」によって、あらゆる決済手続きの自動化を目指しています。



キャッシュレスの将来像に関する検討会 とりまとめ(概要)

政府はキャッシュレスの推進と平行して、デジタルインボイスの導入も進めていますが、これらによって、日本国内のあらゆる商取引を政府が確実に把握できるようになります。

(参考)政府がインボイス制度を強引に導入した本当の目的


国税庁説明資料

そして、消費税の税率の変更なども簡単にできるようになる可能性があります。

マネーポストWEB(2023/11/21)
財務省・国税庁が急速に進める「税務のデジタル化」の狙いは消費税増税 個人資産も丸裸に

「デジタル・インボイスが普及すれば、請求書から決済、経理処理や税務申告、課税までリアルタイムで行なわれるし、その過程ごとにAIにチェックさせることで不自然な取引があれば瞬時にわかる。この税務インフラが整備されれば、主税局の官僚がパソコンに入力するだけで、消費税の税率を上げるのも、商品によって税率を細かく変えるのも、簡単に行なえるようになります」

あらゆる取引がデジタル化されて、政府が把握できるようになれば、全ての金融所得を社会保険料に反映させることも、簡単にできるようになるでしょう。

読売新聞(2024/5/19)
「金融所得で社会保険料増」政府検討に波紋…投資促進と逆行懸念「反発避けられない」

現在の国民健康保険や後期高齢者医療制度では、株式の配当などを確定申告すれば、金融所得を含めた所得を基に保険料が算定され、金融所得が増えれば保険料負担も増える。一方、確定申告をせずに源泉徴収のみの場合は保険料の算定に反映されず、同じ所得でも保険料に差が生じている。
金融所得の反映には、こうした不公平感を解消し、支払い能力に応じた負担を実現する狙いがある。

いずれにせよ、新紙幣の導入は、政府が目指す方向と合致していることは間違いないはずです。

あらゆる取引を政府が把握できるようになると、政府は様々な理屈を探し出して、国民の負担を増やそうとする可能性もありそうです。

 
ちなみに、今回の新紙幣の発表は5年前でした。

PRESIDENT Online (2019/4/13)
なぜ"5年後の新紙幣"をいま発表したのか

新紙幣の発行を決めたのは、安倍晋三首相と麻生氏である。発表から発行まで5年かかることになる。前回、2004年の新紙幣発行では、発表は2年前の2002年。それに比べると、今回はかなり早い時期の発表だった。

4月1日の新元号の公表と5月1日の改元、そして天皇の即位とタイミングがうまく重なる。麻生氏は「たまたま重なった」と話していたが、果たしてそうだろうか。新紙幣発行の発表は一連の祝賀ムードをさらに盛り上げるための小道具のひとつだと思う。

この記事では、令和の始まりを盛り上げるために、5年も前に発表したのではないかと書かれています。

それも理由の1つかもしれませんが、実は「1万円札廃止論」が関係しているかもしれません。

日本経済新聞(2017/5/25)
1万円札廃止論の裏側

「まず1万円札の廃止を」――。こんな書き出しで始まる本が今春、日銀内で話題になった。ハーバード大のロゴフ教授の近著「現金の呪い」で、冒頭の言葉は日本語版の序文に掲載されている。主張の根拠は大きく2つ。世界中で増え続ける現金が脱税など不正の温床になっている点と、紙幣への逃避を防げばマイナス金利政策が効果を発揮しやすくなるという点だ。

日本経済新聞(2021/7/5)
1万円札が消える日 高額紙幣、世界に廃止の潮流

2024年に登場する新1万円札は「日本実業界の父」とされた渋沢栄一が描かれる。日本初の銀行、第一国立銀行(現みずほ銀行)や日本初の保険会社、東京海上保険(現東京海上日動火災保険)の設立に携わるなど「初物づくし」の渋沢だが、24年の新紙幣は日本で最後の1万円札になる可能性がある。

高額紙幣は犯罪に使われやすいというのが、1万円札廃止論の基本的な根拠ですが、キャッシュレスの推進にもメリットがありそうです。

でも、政府の周辺には、1万円札がなくなると困る人が少なくないと思います。
例えば、自民党の裏金が必要な政治家など。

新紙幣を発行の5年も前に発表したのは、1万円札廃止の議論を打ち消すためではないでしょうか。

年々キャッシュレス決済が増えている現状を考えると、1万円札廃止の議論が盛り上がるのはまずいと考えたのかもしれません。

こんな記事もあります。

NRIナレッジ・インサイト(2019/4/9)
新紙幣発行はキャッシュレス化に逆行する側面も

1万円札の廃止の議論が公になされることなく、今回、新たな1万円札の発行があっさりと公表された。もちろん、突然廃止すれば社会的混乱は大きいことは確かであるが、公には全く議論がされなかったことは、それに否定的な財務省、あるいは日本銀行の姿勢を反映しているようにも思われる。

政府は2025年までにキャッシュレス化比率を40%まで引き上げることを目指しているが、それに最も前向きなのは経済産業省だろう。他方、財務省、金融庁、日本銀行などは、キャッシュレス化にやや慎重な姿勢と見受けられる。

やはり政府内でもいろいろ対立がありそうです。

まあ、とりあえず、自民党政権が続く限り、1万円札がなくなることは、ないかもしれません・・